新井英一「オオカミ狩り」
フォークソングの仲間であり大先輩である、かわさきゆたかさんと話をしていた時、すごくいいぞー、とすすめられたのがこの新井英一の「オオカミ狩り」副題ヴィソーツキイとパリの男たち、である。かねてからその名は「清河(チョンハー)への道〜48番」という作品の存在とともに「知って」はいたのだが、未だ聞く機会を得なかった。大体そこいらのCD屋さんには売っていないんですよ、新井さんのCD。新星堂という結構大きなCDチェーンがあるんだけど、そこには確実に置いてあるようだ。というか、オーマガトキという発売元(この会社、渋いわ。他の発売作品もヴィクトル・ハラとかあるし。このひとのことはまた別のところに書くつもり)の、販売が新星堂なのであるから。
それで先日やっとその店に行って手に入れてきたんだけど。
いやー、すごいわ。聞いてしばらく呆然としてしまった。大体CDで聞く音楽ってのは現実の演奏者の半分も伝えれば上出来というものである。とくにこういう歌い手のものってそういう事が多い。何と言うかよそゆきの音になってしまうわけだ。ところがこの新井英一の音は!
しわがれた太い声が、うたいはじめるともうそれは完全にこのひとの世界なのだ。
ロシアの反体制的歌い手であった(もう亡くなったけど)ヴィソーツキイのロシアン・フォークソング(というのが正しいとおもう)からうたいはじめる。ヴィソーツキイにはパリで録音したアルバムがある。そんな感じの、ロシアとパリが混ざりあったような音楽。それを新井さんの声がうたう。
このCDの録音もパリでフランス人のミュージシャンたちと一緒に(ギターは日本の人)されている。ヴィソーツキイの他にゲンズブール、ブレル、ムスタキ等。フランスじゃあおなじみの、といっても渋めの人たちばかり。これがすごくぴったりくるのだ。まるで新井さんが作った曲のようにすばらしく自然でしかも直接腹にひびいてくるうたなのだ。パリの下町で友人たちをあつめて居酒屋ライブをやったときフランス人のプロたちが脱帽したというが、そりゃーなぁ。これほどのうた、ことばの限界などとっくに越えてるわけできく心のある人ならだれだってそうだろう。
しばらくほかの音楽など聞きたくないと思うほどだ。
ありがとうかわさきさん。こんなにすごいもの紹介してもらって。
そしてもちろん、ありがとう新井英一。