疾風怒濤の時代1
中学校は彼の運命を決めた時代であった。
まず最初に友との出会い。きっかけは何であったのか彼は覚えていないという。ともかく気がついたときは取っ組み合いの大喧嘩になっていた。
たぶん、お互い虫の好かない相手であったのだろう。なにしろ、片やいかにもな文弱・お勉強少年タイプ、片やスポーツ系さわやか少年タイプである。
性格がまるで違いすぎる。そういうわけで喧嘩だったのであろう。
当時の少年達の喧嘩というものは結構それなりのルールがあって、腕力を使う場合も相手によって加減したりする。であるから、あくまで取っ組み合いであって殴り合いではない。
結果は、どちらも「負けなかった」。こういうことは当時の少年達の間では
よくあったものである。意外なのは文弱タイプが負けなかったことで、これが「なかなかやるな」になるのだから、スポーツ少年もたいしたものである。変なプライドがないから、認めるべきは認める態度であった。これに、文弱君のほうも感銘を受けたらしい。ま、男らしいやっちゃ、というやつであろう。
こうして一組の親友がうまれる。そうなってみるとなかなかこれが楽しい。
片や侠気のかたまりであるが実はあたまもきれる、片や一見軟弱だが実は
正しいと信じたらてこでも動かない。何のことはない気が合ってしまったのである。そうなるとクラス(隣の組)も、クラブ(体育系と文科系)も違うのにしょっちゅう一緒に遊んでいるわけである。これは当時何人かの女どもの嫉妬をかったものである。というのもスポーツ少年はやたらとかっこいい、つまり、長身・ハンサム・スポーツ万能の上あたまもきれるという、(少々足は短かったが)その気になれば両手どころか部屋いっぱいの花ってなことになりそうな奴だったからである。今の時代だったら「やおい」系を疑われかねないが、当時はそういうものは流行ってはいなかったし、実の所ふたりともその気(け)はない。ただいっしょにあれこれするのが楽しかったし、またお互いにない部分が見事にフォローしあっていたのであった。
こうして最強コンビとなった彼らはもはや怖いものなど何もなかった。同時に教師の受難の時が始まってゆくのであるが。
そう、けして彼らは「優等生」ではなかったのである。成績はともかく、態度がでかい、しかも腕力でも頭脳でも人望でもふたりあわせれば無いものなどない、といったやつらが手を組んで悪童として君臨したのである。それも
それなりに筋を通してやってくるので、撃退するのはとても難しい。
実際筆者は今教師稼業をつとめているのであるが、ああいうコンビを教えるのは、(面白くはあるだろうが)かなりしんどいであろうと思う。
そうこうしているうちに、スポーツ少年がお誘いをもってきた。
彼はバスケットボール部のメンバーだったのだが、「うちのクラブへ来ないか」というのである。体育なんぞろくな成績を取った事も無い文弱少年は、
「?」であった。するととりあえずマネージャー兼スコアラーとして入ってくれればいいのだ、ということであった。それなら出来ない事も無い、と思って入った少年を待っていたのは地獄の特訓であった。どうやら知らない内にどこかで陰謀がすすんでいたようである。はめられたと気がつくまもなく
朝練・放課後・下校時間後のハードな特訓が続いてゆくのであった。
(つづく)