E..E.スミス

 スペース・オペラの代表者である。正直なところ、その疑似科学はスミスの生きていた時代を考慮してもかなり 時代遅れなものであった。また、小説としての完成度も、文体も文学的な小説を読み慣れている人には少々不足している。 なんというか子供の書いた文章のようなたどたどしさと、ご都合主義に、人によっては辟易するかもしれない。
しかしながら、通俗小説としてのSFの発展はまさにこれらスペース・オペラをもって始められたのであり、 その楽しさはやはりSFの原点のひとつであるといえるだろう。
現に「スター・ウォーズ」は、もともとはこのスミスの「レンズマン」の映画化をめざしていたことが知られている。 残念なことにプロットの壮大さでは「原作」に及ぶべくもないものになってしまったが……。
また、政治性も時に露骨なほどの反共主義が目に付く。とくに「大宇宙の探求者」では鼻につくほどだ。
 そういうわけで、スミスを読むなら、とりあえず科学と政治は忘れて読め、ということになる。これら大きな欠点 にもかかわらず、それなりの一貫性とヒーローのアメリカ的なかっこよさは一読に値するものだからである。
代表作としては「レンズマン」と「スカイラーク」のシリーズがあるのだが、はっきりいってこの「レンズマン」の外伝的作品である 「渦動破壊者」、それに別系統の作品「大宇宙の探求者」はすすめられない。正直つまらないからである。
なお、創元から、デイヴィッド・カイルによる「レンズマン」シリーズの外伝が出ている。小説としてのできはこれのほうが いい。「レンズマン」が気に入った人なら必読といえよう。ただしあくまでも「レンズマン」ファンによる外伝であって、 スミス本人のものではない。なお、このシリーズは全三巻のはずだが、三巻目はずっと出ていないようだ。

  おすすめリスト

「レンズマン」シリーズ(「銀河パトロール隊」「グレー・レンズマン」「第二段階レンズマン」「レンズの子ら」、および「ファースト・レンズマン」「三惑星連合軍」、「渦動破壊者」)

 とりあえず読むならこれである。創元SF文庫からでているはずなのだが、ひょっとするとすでに絶版になっているかもしれない。 1−4巻はキムボール・キニスンという名の英雄が主人公である(もっとも4巻目は彼の子供たちも)。
この文庫では5巻と6巻がいわば外伝で、キニスンの所属するパトロール隊が誕生し、さらにレンズマンというものが生まれるいきさつが描かれている。 ただし、第6巻は本来は別の作品で、これの設定を利用してスミスは「レンズマン」シリーズを書いたのである。 さらに先に触れたが「渦動破壊者」が7巻ということになっているが、これは完全にサイドストーリーである。 訳者の意図どおり巻数順に読んでいくのがいいだろう。
なお、英雄のご先祖はやはり英雄だというのは、一応そういう血統を育てているのだという設定があるとはいえ気に入らない。第一、そんなものを選んで育てるなどということが可能かどうか、という点も さりながら、歴史を作るのはいくたりかの英雄などではなく、彼らはいわばエピソードを添えるものでしかない、ということをこれを読んだ後は思い出す必要があるだろう。 まあそういう小説なんだからしょうがないといえばしょうがないんだけど……

「スカイラーク」シリーズ(「宇宙のスカイラーク」「スカイラーク3号」「ヴァレロンのスカイラーク」「スカイラーク対デュケーヌ」)

 これも最近店頭では見かけないから、あるいは絶版になっているのかもしれない。なにはともあれ、このシリーズではじめてSF小説で 太陽系の外に人が出ていくことになったのである。それまではSFといえども火星人や木星人や水星人などが活躍していた。
例によってその疑似科学は他愛のないものではあるが、とはいえ当時のスペース・オペラたるや、そういう疑似科学的考察もなんのその、 ともかくも冒険とスリルさえあればよいといったものであったから、このシリーズは群を抜いて「論理的」だったのであり、それゆえ 発行当時、驚異的な人気を誇ったのである。ともかくものすごい疑似科学のオンパレードであるから、それ自体を楽しむっていうのが このシリーズの「正しい」読み方ではなかろうか。