アイザック・アシモフ

 アシモフが好きだ。自信家で、博覧強記で、ユーモアとゲーム性に富んだ作品群をうみだすその精力と、そのくせ どこかシャイなその感覚にとても心ひかれる。たしかにその心理描写は、不器用でジュブナイル(少年少女向け小説) の域をこえないものが多いという評価もあるのだが、それとてとくに四〇ー五〇年代の小説の最良のものに共通の 特徴でもある。
アシモフは化学の専門家でもあるので、その科学知識はかなり確かなものである。したがって「超」科学的な妖しい ガジェットは殆ど登場しない。ただし、意図的にそういうものを用いている場合はあるが。
実際一時期アシモフはほとんどSFを書かず、科学解説・入門書と、ミステリだけを書いていたのだが、これら解説 書の正確さはさすがであった。
 また、ミステリについていえばパズル的な謎解きをもっとも好むようで、そういった作品が多い。事実、「黒後家 蜘蛛の会」のように、作品によっては犯罪が登場せず文学や科学の「謎解き」をする、といったものさえある。
SF作品においてもこういった「謎解き」要素が多くを占める作品がいくつかある。「ファウンデーション」シリーズ のいくつかや、ロボットシリーズの多くもいわば「SFミステリ」である、といっていい。
 アシモフの二大シリーズといえば、一連のロボット物と「ファウンデーション」シリーズである。
前者は殆どが短編であるがイライジャ・ベイリという名の人間とR・ダニール・オリヴォーという名のロボットを主人公 とする長編SFミステリがいくつかある。後者では最初の三部作が書かれてから三〇年後に第四部がかかれ、全七部 (他に外伝的なジュブナイルや等があるが)である。また、この二つのシリーズはやはり八〇年代ー九〇年代に書かれた 作品によって統合され一つの作品世界となっていく。
絶筆「ファウンデーションの誕生」はアシモフの遺書であり、最後の数行を読んだときには泣かずにはいられなかった。
「これが----これが----わたしのライフワーク だった。わたしの過去----人類の未来。ファウンデーション。すごく美しく、すごく生き生きしている。そして、なにものも ………」

  おすすめリスト

「銀河帝国の興亡1-3」または「「ファウンデーション」「ファウンデーション対帝国」「第二ファウンデーション」 (前者は、創元SF文庫、後者は早川)

 出版社はちがうが、同じ小説の翻訳である。いわゆるファウンデーション三部作。
はるかな未来、ようやく銀河帝国の体制も衰えはじめ、それにともない長い暗黒の時代が来ることを一人の 心理歴史学者、ハリ・セルダンは予見した。 もはやその没落は避けられない。が、せめてその暗黒時代を短いものにできたら……。 かくして二つのファウンデーションが設立された。ひとつは公然と設立され、いくつかの危機を乗り越えた。しかし もう一つのファウンデーションは「星界の果て」に設立されたとされるが、誰もその姿を見た者はなかった……。

「ファウンデーションの彼方へ」「ファウンデーションと地球」「ファウンデーションへの序曲」「ファウンデーションの誕生」

 三部作の続編は、アシモフ自身の思想の変化を反映している。すなわち、第二ファウンデーションのさししめす未来 という物に対して、新たな可能性(であると同時に不安な)、ゲイアという概念(これ自体はさして新しい物ではないのだが) を提示し、かつ主人公がこれを選び取るという変化である。しかしながらアシモフ自身これが一番いいとは思っていない。 そのことは「ファウンデーションと地球」のなかで語られるのだが、結局非常に良心的な民主主義者であるアシモフ だからこそ一体となった地球というものになにか胡散臭いものを感じているわけである。未来という物はやはり人が自ら 築いていくものであって、誰かから押しつけられる物ではない、ということであろう。
それゆえ、最後の二巻はファウンデーションの創始者たるハリ・セルダンのいわば伝記となっている。思うに、人はすべてを 予見するものではないが、よりよき未来をめざして紆余曲折をへながらも努力していくものなのである。そしてそれこそが 真の「未来への希望」なのだ、ということを語りたかったのだと思う。そしてそれはアシモフの生涯の願いでもあった。
 なお、第五部以降では、アシモフのもう一つのシリーズとの融合がみられる。

「われはロボット」「ロボットの時代」

 そのもう一つのシリーズというのがこのロボット物である。有名なロボット三原則というものが定式化されたのもこのシリーズ を書いていく過程だったという。この二冊は短編集だが、以後自動で動くロボットはこの三原則を意識せずには描けなくなった。

「鋼鉄都市」「はだかの太陽」

 ロボット物の長編。ミステリでもある。ここで登場するイライジャ・ベイリという名の人間とR・ダニール・オリヴォーという名のロボット は、後の作品で重要な役割を果たすことになる。

「夜明けのロボット」「ロボットと帝国」

 その後の作品というのがこの二作である。三原則だけでは足りない事態が発生したときどうするかというテーマで、 アシモフは第零原則というのを作り出す。結局人間は社会的な生き物だということ。
それゆえに、どのような未来を創りだしてゆくか、という問題は「ファウンデーション」シリーズと融合することで 語られていくことになる。