池波正太郎 「剣客商売」シリーズ



 日本共産党の委員長である不破哲三さんが、インタビューにこたえて、愛読書としてあげていたのがこの本です。
不破さんの最近の著作って、こういうのもなんですが大変さえてます。雑誌「経済」連載の「レーニンと資本論」とか、その前の連載の「エンゲルスと資本論」とか、非常に厳密で、しかも先入観に囚われない大胆さで展開される理論の構成の歴史と、読み込みに敬服しておるわけです。
ただ、文学に関してはどうかなーと理由もなく思っていました。なにしろ先の議長であった宮本顕治さんはもともと文学者で、あの小林秀雄より高く評価されたりした人でしたから、比べるのもなんですが理学部出身の不破さんだとどうでしょうとか思ってました(ちなみに私、理学部出身なんです、学校は違いますが)。
ま、そういうわけでとりあえず正編16冊(他に外伝などあり)のうち、第一巻の「剣客商売」だけ買ってきて読み始めました。結果、先程16巻「剣客商売 浮沈」を読み終わった所です。
これもはまりますね。読み出したらとまらないの一言です。 秋山小兵衛とその息子大治郎、そして彼らの家族や友、仲間達の織り成す 世界というのはいわば江戸庶民の世界です。ま、権力者である田沼意次もでてきますが。
余談ですが田沼意次という人について、最近は「賄賂政治家」というのとは別の評価もされはじめているようです。まあ賄賂をとったのは事実ですし、この点は当時は犯罪ではなかったわけですがいいこととは言えないでしょう。ただ、今頃の賄賂政治家たちとちがうのは、財政の立て直しを、

本気で

やろうとしていたことです。この点田沼の政敵であり、田沼失脚後、老中となった松平伊豆守など、無能のひとことに尽きます。
このあたりの政治と経済の状況については講談社現代新書「将軍と側用人 の政治」(大石慎三郎 著)がなかなかよい入門書となっています。
閑話休題、そういう時代に親子ふたりの剣客が生きていくわけです。 ときには悪い旗本を懲らしめ、ときには苦しむ市井の人達に手を差し伸べるという点でなるほどとおもうわけですが、同時に崩壊しつつあった封建社会の様子が、とてもリアルです。いろんな読み方があると思いますが、 ともあれ面白いのは確かですね。